キャリア自律を支える上司の役割

2026.04.16

2026.04.16

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+++ “キャリアを語れるマネジャー” はどう育てるか +++


前回のコラムでは、キャリア自律を機能させるためには、
制度ではなく「組織の設計」が重要であることをお伝えしました。

その中でも特に重要な要素が、上司の関わり方です。

キャリア自律は、個人が一人で考えるものではありません。
日常的に影響を与える存在である上司が、どのように関わるかによって、その質は大きく変わります。

しかし現実には、
 ・ 1on1 をしてもキャリアの話にならない
 ・ 上司がアドバイスに詰まる
 ・ 結局、異動希望の確認で終わる

といった課題が多く見られます。

では、「キャリアを支援できる上司」は、どのように育てればよいのでしょうか。

上司が知っておくべきキャリアの基本

まず重要なのは、上司自身が「キャリアとは何か」を理解していることです。

キャリアは単なる職歴ではありません。
個人の価値観・強み・外部環境が重なり合って形成されるプロセスです。

ここで参考になるのが、
組織心理学者である Edgar H. Schein が提唱した「キャリアアンカー」の考え方です。

人はそれぞれ、

  • 専門性を高めたい
  • 組織を率いたい
  • 安定を重視したい
  • 自由度を求めたい

といった異なる価値観を持っています。

上司に求められるのは、「正解を示すこと」ではなく、
部下が自分の軸(アンカー)に気づく支援をすることです。

また、キャリアは直線的に成長するものではありません。
一定期間、役割や成長が停滞する「踊り場(プラトー)」が存在します。

この時期を「停滞」と捉えるか、「再設計の機会」と捉えるかで、その後のキャリアは大きく変わります。

キャリアの概念では、これは「トランジション」と呼ばれ、
むしろその先に向けて力を蓄え、活躍するための重要なフェーズと捉えられています。

上司がこうした基本概念を理解しているかどうかは、キャリア対話の質に直結します。

部下との対話を変える3つのメソッド

では、実際にどのように対話すればよいのでしょうか。
ポイントは「教える」ではなく、「引き出す」ことです。

① 問いかけを中心にする

「どうしたい?」ではなく「何を大切にしている?」
「次は何をやる?」ではなく「どんな経験に意味があった?」

表面的な希望ではなく、背景にある価値観に踏み込みます。

特に、「どんな経験に意味があったか?」の質問は、
部下の内省を促す貴重な問いかけです。
「やりっぱなし」ではなく、そこに内省が入ることで、次への成長に繋がります。

② 過去・現在・未来をつなぐ

キャリアは未来だけを考えても見えてきません。

  • 過去:どんな経験が印象に残っているか
  • 現在:どんな強みが発揮されているか
  • 未来:どんな状態を目指したいか

この3点をつなぐことで、現実的な方向性が見えてきます。

③ “決めさせる” のではなく “考え続けさせる”

キャリアは一度決めて終わるものではありません。

上司の役割は、

  • 答えを出すことではなく
  • 思考を深めることを支援すること

です。

そのためには、継続的な対話が不可欠です。

キャリア対話とは、「正しい答えを出す場」ではなく、「問いの質を高める場」と言えるでしょう。


上司がやってはいけないこと

一方で、キャリア対話を阻害してしまう関わり方もあります。

① 自分の成功体験を押し付ける

「自分はこうしてきた」という経験は参考にはなりますが、
そのまま適用できるとは限りません。

特に昨今のように変化の激しい時代では、
過去の成功事例が必ずしも最適解にはならないケースも多く、注意が必要です。

どうしても経験談を話したい場合は、
むしろ「失敗談」の方が親しみを持たれ、部下にも参考になるかもしれません。

② 組織都合だけで語る

「今は人が足りないから」
「この部署に行ってほしい」

こうした社の都合を伝えることは、「自律キャリア」の観点からすれば、
真逆の効果になってしまうリスクがあります。

仮に、その部下にとっても有用なキャリアパスだったとしても、
あくまで「あなたのキャリアにとって役立つはず」という「主体は部下」の姿勢をキープします。

③ すぐに結論を出そうとする

「結局どうしたいの?」と急かしてしまうと、思考は浅くなります。

キャリアは曖昧なまま考え続けることにも意味があります。

“キャリアを語れるマネジャー” を育てるために

ここまで見てきたように、キャリア自律を支える上司には、
従来とは異なる知識と対話スキルが求められます。
しかし、これらは自然に身につくものではありません。
意図的なトレーニングの設計が不可欠です。

では、これらをどのようにトレーニングとして提供するか。
一例として、以下のような構成が考えられます。

Day1:理解と内省

  ・ キャリアの基本概念(キャリアアンカー、キャリアの段階)
  ・ 自身のキャリアの棚卸し
  ・ 上司としての役割の再定義

 「まず自分(上司)がキャリアの概念を理解する」フェーズ

Day2:実践とフィードバック

  ・ キャリア対話のロールプレイ
  ・ 問いかけ
  ・ 傾聴スキルの実践 (コーチング)
  ・ フィードバックと改善

 「実際にやってみる」フェーズ

重要なのは、知識だけで終わらせず、
行動変容につなげる設計にすることです。

また、このように理解・内省・実践を一体で設計することで、初めて行動変容につながる研修になります

アフターフォローの設計

研修は “きっかけ” に過ぎません。
社内にキャリア自律を定着させるには、その後の支援が不可欠です。

例えば、

  • 個別コーチング(管理職向け)
  • 定期的なフォローアップ研修
  • 1on1の実践共有会
  • 社内キャリアセンターの創設(組織としての支援)

などが有効です。

特に、実際に 1on1 を行った後の振り返りは、学習効果を大きく高めます。


まとめ:上司が変われば、キャリア自律は動き出す

キャリア自律は、制度だけでは実現しません。
日常の対話の中で初めて形になります。

そして、その中心にいるのが上司です。
キャリアを理解し、適切に問いかけ、継続的に対話する。

この役割を果たせる上司が増えたとき、
キャリア自律は初めて組織の中で 機能するもの になります。

人材開発の次のテーマは、
自律できる人材を育てることではなく、
自律を支援できる上司を育てることなのかもしれません。