静かな退職は、社員の問題なのか

2026.05.14

2026.05.14

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+++ モチベーション低下を“個人責任”にする会社の盲点 +++

そこにいる社員が、実は、心理的には退職してい

近年、世界的に「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が注目されています。
退職するわけではない。しかし、必要最低限の仕事だけを行い、それ以上の貢献や挑戦はしない――そんな働き方を指す言葉です。

「静かな退職」は、単なる怠慢ではなく、“心理的離職” とも言える状態です。
会社には在籍しているが、組織への期待や信頼、成長実感とのつながりが切れている。

その結果として、“必要以上に組織へコミットしない” という行動が生まれているのかもしれません。
私たちは、前回までのコラムで紹介してきた「自立キャリア」と、ほぼ真逆の状態を示す状態であると考え、今回はこのテーマを選択しました。

前回のコラムでは、「 “キャリアを語れるマネジャー” をどう育てるか」というテーマで上司へのキャリア研修などについて解説しましたが、「静かな退職」は、組織または上司との関係で「自律キャリア」がうまく構築できなかった結果の1つの現象ともいえるのではないかと考えています。

企業側から見ると、「静かな退職」は、

  • 最近、若手に覇気がない
  • 指示されたことしかしない
  • 自ら動く社員が減った
  • 挑戦意欲が見えない

と映るかもしれません。

その結果、「最近の社員はモチベーションが低い」「主体性が足りない」と、個人の姿勢の問題として語られることも少なくありません。

しかし、本当にそうでしょうか。

静かな退職は、社員個人の問題というより、組織のマネジメント課題が表面化した現象と捉えるべきかもしれません。

日本でも広がる “静かな退職”

この現象は海外だけの話ではありません。
日本でもすでに顕在化しています。

株式会社マイナビの2024年調査(正社員3,000名対象)では、44.5%の社員が「静かな退職状態にある」と回答しています。
20代では46.7%と全世代で最も高かったものの、世代間の差は大きくありませんでした。

約2人に1人が、「最低限はやるが、それ以上は求めない」と感じている現実は、企業にとって軽視できる数字ではありません。

また、アメリカの世論調査 Gallup の調査では、日本で「仕事に熱意を持ち、積極的に取り組んでいる社員(Engaged)」は2023年時点で6%、2025年データでも8%にとどまり、世界平均を大きく下回っています。

つまり、日本企業では以前から、表面的には働いているが、心理的には離れている社員層が厚かったとも言えるのです。

静かな退職は、突然起きた新現象ではなく、以前から存在していた課題に名前がついたものなのかもしれません。

なぜ社員は頑張らなくなるのか

モチベーション低下を「本人のやる気」で片づけると、本質を見失います。
社員が力を出さなくなる背景には、組織側の構造要因が存在します。

成長実感がない

  同じ業務の繰り返し。新しい挑戦機会も少ない。

  人は、成長している実感が持てないと、徐々に仕事への熱量を失います。

仕事の意味が見えない

  自分の仕事が誰に役立ち、何につながっているのか。

  その意味が見えないと、仕事は単なる作業になります。

評価への不信感

  頑張っても評価されない。
  成果より年次や調整が優先される。

  こうした認識が広がると、社員は自然と「仕事は最低限でよい」と判断します。

上司との関係が希薄

  承認されない。話を聞いてもらえない。
  1on1は進捗確認だけ。

  この状態では、組織や上司との心理的な接続は弱まります。

⑤ 将来像が見えない

  この会社で3年後、5年後、自分はどうなれるのか。
  
  キャリアの見通しが持てない社員は、現在への投資意欲も低下します。
 

静かな退職は “怠慢” ではなく合理的行動かもしれない

企業側から見れば、「もっと主体的に働いてほしい」と思うかもしれません。

しかし社員側から見れば、

  • 頑張っても報われない
  • 成長機会がない
  • 将来も見えない
  • 上司も関心がない

という環境で、必要以上にエネルギーを注がないのは、ある意味で合理的な判断です。

つまり静かな退職とは、

やる気の欠如ではなく、期待値調整の結果とも言えます。

この視点を持たずに、「最近の若手は…」「主体性がない」と語ってしまうと、問題はさらに深くなります。

管理職と人事が見直すべきこと

部下の中に「静かな退職」を始めた人を見れば、通常、上司(管理職)は何らかの対応を行い、その対象者がモチベーションを持ち直してくれるように働きかけます。
管理職にとっては、追加の負荷になり、さらに、誰かの「静かな退職」が、チームの仲間にも何らかの悪影響を与えることが予測できます。

チームの中に、「最低限のことはするが、それ以上のことはしない」というメンバーがいることで、他の社員にも不満が感染して同様な気持ちになる人が出てきたり、ワークロードの分配が不公平になったり、チームの連帯感が失われる可能性もあります。

このような「負の連鎖」を断ち切るには、どうすればよいのでしょうか?

本当に必要なのは、社員が「静かな退職」の状態に至る前に予防し、自然に力を出したくなるような環境をつくることです。

管理職に求められること

  • 定期的な1on1による対話
  • 期待と承認の言語化
  • 小さな挑戦機会の提供
  • キャリアへの関心を示すこと

社員のモチベーションは、日々の上司との関係に大きく左右されます。

人事に求められること

  • 公正で納得感ある評価制度
  • キャリア支援制度の整備
  • ミドル層活性化施策
  • 学び直し・越境機会の提供
  • 管理職向けマネジメント研修

静かな退職を防ぐには、社員本人よりも、管理職と制度側への投資が重要です。

本当に問われているのは、社員ではなく組織かもしれない

静かな退職という言葉は、社員側の姿勢だけに注目されがちです。
しかし本質的には、

  • 成長を提供できているか
  • 対話できているか
  • 公正に報いているか
  • 将来を示せているか

という、組織側への問いでもあります。

社員のやる気を問う前に、社員がやる気を失う構造になっていないかを点検すること。

それこそが、これからの人材マネジメントに求められる視点ではないでしょうか。

さらに、「静かな退職」は、若手だけではなく、シニア層の社員にもその影響がみられます。
最近、「60歳を越えて、継続して会社で働けることは嬉しいことだが、一方で、以前と同じ内容の仕事をしているのに給与は大幅に下がった。モチベーションを高く働くことはキツイ。」と言うような意見を耳にすることがあります。

多くのシニア社員は、単に給与が下がること以上に、「自分は組織から何を期待されているのか」が見えなくなることにも戸惑いを感じています。

役職定年や再雇用によって、「今まで積み上げてきたものがリセットされた」と感じるケースも少なくありません。

60歳以降の再雇用については、その労働条件は改善されつつあるというニュースも聞きますが、これも人生100年時代の課題の1つです。
前のコラムでもご紹介した「自律キャリア」が、企業内で本格的に機能するようになれば、この課題解決の糸口の1つになるはずです。

静かな退職は、社員の問題なのか。 それとも、「人が力を出したくなる環境を設計できていない組織」の問題なのか。
今、多くの企業がその問いを突きつけられています。