【長谷川コラム】上司三日で、部下三年

上司三日で、部下三年

上司の良し悪しを部下は三日で分かってしまうが、部下の出来不出来は少なくとも三年間付き合わないと分からない。なるほどうまいことを言う。実際にそうだと思う。組織では、下から上への見通しは良いが、上から下への見晴らしはすごぶる悪い。このフレーズを聞いてから、なぜそうなるのかがずっと疑問だった。

 

最近読んだ本から、その理屈が自分なりに腑に落ちた。理屈はシンプルだ。部下は上司のことを見ている頻度・時間が多く、上司は部下のことをよく見ていないからだ。類人猿を研究している人類学者は、「群れの者たちはリーダーを見る。しかし、その反対はあまり頻繁ではないし、熱意もこもっていない」と言う。ヒヒの群れの研究によると、典型的なメンバーは20秒から30秒に一回ボスを見る。人間も群れ(社会的集団)で仕事をしているので、ヒヒやゴリラと同じ理屈だ。メンバーは、自分の生存に大きな影響を与える集団のボスのことをよく観察している。しかし、ボスはメンバーをよく見ていない。なので、部下は上司の良し悪しがすぐわかり、上司は部下の働き具合がすぐにはわからない。

 

皆さんも最初に上司になられた時に、そう感じたことはないだろうか。なんかよく観察されているなと。私も、自分ではまったく意識していない口癖や仕草を飲み会でマネされ、そんなことしているか?とよく思ったものだ。上司は自分が思う以上に部下に観察されている。上司がどんな顔して仕事をしているのか、相談しに行った時にいつも何と言うか、などなど。「上司三日で、部下三年」のフレーズから二つのことが学べる。一つは、よく部下を観察しよう。二つ目は、自分がどう見られているか意識をしよう、だ。今回は後者について一言。

 

見所同見

以前、拙稿で世阿弥の「見所同見」という言葉を挙げた。見所(観客席)から観客が自分をどう見ているかの視点を持って演じなさい、という意味だ。スーパープロデューサーである世阿弥が、自分の劇団員に語った芸人論だ。この言葉はビジネスパーソンにも当てはまる。自分が部下からどう見られているのか、自分の言動が部下からどう受け止められているのか、を意識しながら仕事を進めなさいという意味になる。いわゆる自己認識力だ。イケてる上司は自己認識が高く、イケてない上司は自己認識が低いという研究結果はたくさんある。イケてる上司になるために、自分を部下から見る視点、自分を引きの視点で(ドローンのように上から)見る力を養いたい。その2つのカメラ(相手と引き)から見た映像がないと、自分の言動をコントロールできないし、部下が見ていることを生かして部下への影響力を発揮することもできない。

 

苦しいんなら俺の背を見て戦え 俺の背だけを見て

最近、学生に薦められてマンガ『キングダム』を読んでいる。最初は、殴り合いや戦闘シーンばかりで読み進めるか迷いながら読んでいたが、10巻くらいから止まらなくなってしまった。遂に、3週間で今発売している51巻すべて読んでしまった。この漫画はリーダーシップという観点からもたくさんの学びがある。その一つが、リーダー(武将)は、部下(兵士)から自分がどう見られているのかを意識している点だ。生死を分ける究極の瞬間でさえも、自分がどう見られているかを意識している。マンガの中で、主人公の信が乱戦の中言い放すセリフがカッコイイ。「苦しいんなら俺の背を見て戦え 俺の背だけを見て」

 

上司は、自分を部下の視点から見る、自分を引きの視点(ドローンのように上)から見る訓練を通して、自己認識力を磨きたい。

 

長谷川 岳雄 氏
明星大学 特任教授   株式会社 みらいへ 代表取締役
1991年早稲田大学商学部卒業、2004年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻(現 経営 管理研究科)修了。経営学修士(MBA) キャリアコンサルタント(国家資格) MBTI認定ユーザー。
1991年オリックス株式会社入社。法人金融サービス部門の営業に従事。その後、大学院修士課程を経て 人事部にて勤務。2003年株式会社みらいへ設立。明星大学でキャリア教育を実践するとともに、「キャリア開発」・「リーダーシップ開発」をテーマに企業研修講師、人事制度のコンサルをおこなっている。

この記事を書いた人
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