キャリア自律は「自己責任」ではない

2026.03.19

2026.03.19

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+++ 自律と放任を取り違えた組織で起きていること +++

「キャリア自律を進めているのに、社員が自律的にならない」
そんな悩みを持つ企業は少なくありません。

近年、多くの企業が 「キャリア自律」 を掲げるようになりました。
社員一人ひとりが自分のキャリアを主体的に考え、行動すること。
これは、変化の大きい時代において確かに重要な考え方です。

しかし現場では、
 「キャリア自律と言われても何をすればよいかわからない」
 「1on1 をしているがキャリアの話にならない」
 「社員が将来像を描けない」
といった声も少なくありません。

なぜこのような状況が起きるのでしょうか。

その背景には、キャリア自律そのものの定義が曖昧で、もっと言えば、キャリアの考え方自体が不明確である事実が考えられます。

本来のキャリア自律とは、社員だけに任せることではありません。
むしろ、組織としての設計があって初めて成立するものなのです。

なぜキャリア自律は “進まない” のか

キャリア自律が進まない理由としては、社員の主体性が不足している若手が受け身であるャリア意識が低いといった説明がよくなされます。

しかし、これは表面的な理解かもしれません。

そもそも日本企業の多くは、長い間 「就社型」 のキャリアモデルの中で運営されてきました。
社員は会社に入り、配属や異動は組織が決める、昇進や役割も会社の中で与えられる、個人がキャリアを設計する機会は多くありませんでした。

そのような環境で働いてきた人たちに、突然 「自律的にキャリアを考えてください」 と言っても、戸惑いが生じるのは当然です。

さらに重要なのは、上司世代も同じ構造の中でキャリアを歩んできたという点です。

自分自身がキャリアを設計してこなかった上司が、部下のキャリアを支援することは簡単ではありません。

その結果、1on1 は次第に業務の進捗確認や評価の説明、異動希望のヒアリングといった内容に収束していきます。
本来期待されていた 「キャリア対話」 は生まれにくくなります。

自律とは 「放任」 ではない

ここで改めて考えたいのが、「自律」 と 「放任」 の違いです。

自律とは、社員が好きなようにキャリアを考えればよいという意味ではありません。
また、会社が関与しないことでもありません。

自律とは、
 一定の枠組みの中で主体的に選択できる状態
を指します。

例えば、次のような状態です。

  • どのような役割や専門性が組織の中で求められているのかが見える
  • どのような経験が次のキャリアにつながるのかが理解できる
  • 上司とキャリアについて対話できる環境がある

このような枠組みがあって初めて、個人は主体的に考えることができます。
枠組みがないまま 「自律してください」 と言えば、それは単なる放任になります。

キャリア自律が進まない組織の多くは、この二つを取り違えています。

キャリア自律を支える組織の設計

では、キャリア自律を実際に機能させるためには、組織は何を設計すべきなのでしょうか。

重要なのは、次の三つの要素です。

キャリアの 「見える化」

社員が将来を考えるためには、まず組織の中にどのようなキャリアの可能性があるのかが見えている必要があります。

例えば、専門職としての道マネジメントとしての道新規事業やプロジェクト型の役割などです。

こうした選択肢が示されていない場合、社員は将来を想像することができません。

キャリア自律の第一歩は、キャリアの選択肢を可視化することです。

キャリア対話の質

キャリア自律を支えるもう一つの要素は、対話です。
とくに上司との対話の質は重要です。

1on1 が形骸化している組織では、キャリアの話はほとんど行われません。
しかし、本来の 1on1 は、業務管理だけでなく将来の方向性について話し合う場でもあります。

そのためには、上司自身がキャリアについて考える経験を持っていることが重要になります。

キャリア自律を促進するには、上司世代へのキャリア教育も欠かせません。

経験機会の設計

キャリアは、対話だけで形成されるものではありません。
実際の経験が必要です。

例えば、新しいプロジェクトへの参加部門を越えた経験海外や異文化環境での仕事などです。

こうした経験を通じて、人は自分の強みや志向を理解していきます。

キャリア自律とは、単に将来を語ることではなく、経験を通じて方向性を見つけていくプロセスでもあります。

キャリア自律は本当に 「個人の問題」 なのか

キャリア自律という言葉は、しばしば個人の姿勢の問題として語られます。
しかし実際には、それは組織の設計の問題でもあります。

 キャリアの選択肢は見えているか。
 上司はキャリア対話ができるか。
 新しい経験の機会はあるか。

こうした条件が整っていない組織でキャリア自律を求めても、現実には、個人で自分のキャリアを考えるしかなく、最悪の場合、社外にその先のキャリアを見つけ出す、などということになりかねません。
優秀で、自分で自律してキャリアを考えることができる人材ほど、そのような動きになるリスクが考えられます。

キャリア自律とは、社員が一人で考えるものではありません。
組織と個人が共同で作っていくプロセスです。

だからこそ、人事には重要な役割があります。

社員に「自律」を求める前に、自律が成立する環境を設計すること

それが、これからの人材マネジメントに求められている視点ではないでしょうか。